デジタル遺言なら簡単って本当?知っておきたい5つの誤解

「遺言書がデジタル化される」というニュースを見て、

「もう手書きしなくてもいい」
「パソコンに保存しておけばいい」
「自宅からオンラインで作れる」

と思っていませんか。

デジタル技術を使った新しい遺言の制度は、2026年6月に法律で決まりました。正式な名前は「保管証書遺言」です。

この記事では、保管証書遺言(デジタル遺言)について、よくある5つの誤解を説明します。

誤解1 もう遺言書を手書きしなくていい

これは誤解です。

新しいデジタル遺言の制度は、まだ始まっていません。

現在、自分で作る「自筆証書遺言」では、遺言書の本文・日付・氏名を本人が手書きする必要があります。

財産の一覧表である「財産目録」は、パソコンで作ることができます。しかし、「誰に、どの財産を渡すか」という大切な本文は、今のところ手書きが必要です。

新しい制度が始まれば、遺言の本文をパソコンなどで作れるようになります。

しかし、今、WordやPDFで遺言書を作っても、有効な遺言書になるわけではありません。

誤解2 自分のパソコンに保存しておけばいい

これも誤解です。

新しい制度が始まった後も、作ったデータを自分のパソコンやスマホに保存するだけでは、法律上の遺言にはなりません。

「保管証書遺言」は、法務局に保管してもらうことが必要です。

本人の希望を伝えるメモにはなりますが、それだけで不動産の名義を変えたり、預金の相続手続をしたりすることはできません。

デジタル遺言は、

「自分でデータを保存する制度」

ではなく、

「データなどで作り、決められた手続をして、法務局に保管してもらう制度」

です。

誤解3 誰でも自宅からオンラインで完結できる

新しい制度では、オンライン申請やウェブ会議を使える場合があります。

しかし、誰でも必ず、自宅からすべての手続きを終えられるわけではありません。

基本となるのは、本人が法務局に出向き、本人確認などを受ける方法です。

遺言者は、法務局の遺言書保管官の前で、作成した遺言の全文を口頭で伝えることが必要です。

ウェブ会議を使うには、本人からの申出が必要です。さらに、遺言書保管官が「ウェブ会議を使ってもよい」と認めなければなりません。

そのため、

「足が悪いから必ずオンラインでできる」
「遠くに住んでいるから自宅でできる」
とは限らないのです。

どのような場合にウェブ会議を利用できるのか、どのような方法で本人確認をするのかなど、細かなルールは今後決められます。

誤解4 AIで作れば完璧な遺言書ができる

AIに、

「妻に自宅を相続させる遺言書を作ってください」

と入力すると、すぐに遺言書らしい文章が出てきます。

しかし、AIが作った文章が、必ず正しいとは限りません。

AIは、ときどき、事実ではないことを本当のことのように答えます。これを「ハルシネーション」といいます。文章が自然で、自信があるように見えても、間違っていることがあります。

また、AIは入力されていない事情までは分かりません。

例えば、本人に前の結婚の子どもがいることや親が生きていること、不動産を夫婦で共有していることなどを伝えなければ、それを考えずに文章を作ります。

家族関係や財産の状況が少し違うだけでも、適切な遺言の内容は変わります。

AIは、自分の考えを整理したり、文章の下書きを作ったりするためには便利です。

しかし、AIが作った遺言書をそのまま使うのではなく、戸籍や財産を確認し、法律と照らし合わせて内容を確かめる必要があります。

誤解5 デジタル化されるまで待った方がいい

「もう少し待てば、パソコンで簡単に作れるようになる。それまで遺言書を作らなくてもよい」と思う方もいらっしゃるでしょう。

しかし、わざわざ新しい制度が始まるまで待つのは、おすすめしません。

先延ばしにしている間に、病気になったり、自分の考えを伝えることが難しくなったりする可能性もあります。

今は、本人が手書きする自筆証書遺言や公証人に作成してもらう公正証書遺言を利用できます。

遺言書は一度作ったら終わりではありません。

まず現在の制度で遺言書を作り、新しいデジタル遺言が始まった後に、必要があれば作り直すこともできます。

【まとめ】紙もデジタルも、遺言で大切なことは変わらない

デジタル遺言が始まれば、長い文章をすべて手書きする負担は減ります。

書き間違いを直したり、文章を整理したりすることも、今より簡単になるでしょう。

しかし、簡単になるのは、主に遺言書を作成し、保管する方法です。

また、法務局に保管してもらっても、遺言の内容が正しいと保証されるわけではありません。法務局が行うのは形式についてのチェックです。

誰に何を渡すのか、残された家族が困らないか、本当に手続きできる内容になっているかを考える必要がなくなるわけではありません。

紙で作る遺言でも、デジタルで作る遺言でも、大切なのは同じです。

デジタル化を待つよりも、元気で自分の考えを伝えられるうちに、まずは今できることから早く準備を始めましょう。

※この記事は、2026年7月19日時点の法令および公表資料をもとに作成しています。くわしくは法務局の最新情報をご確認ください。